休日の過ごし方

 とある日曜日、某スポーツジム。
 プールが見下ろせる大きなガラス窓の傍に並べられたランニングマシーンで、四乃森蒼紫と緋村剣心、それから相良左之助が汗を流していた。三人はこのスポーツジムで知り合った。緋村はこの近くでイタリア料理の店を持っている。相良はジムのインストラクターだが、勤務時間外も訪れてマシーンを使う。身体を動かすのが根っから好きらしい。
「それにしても、結婚したばかりの男が、休みの日にジム通いなんて、奥さんは何も言わないのか」
 緋村が心配げに問いかければ、
「妻も一緒に連れてきた」
 蒼紫が答えた。
「夫婦で来てるのかよ。なんだそりゃ。それなら何もジムに来なくとも家で十分な”運動”が出来るじゃねぇか」
 相良はニヤニヤと口元をゆるめている。
 蒼紫はそれには反応を示さず、涼しい顔で黙々と走り続ける。
 だが、相良はめげることなく続ける。
「随分年が離れているんだろう? そんな若い嫁さんもらったら、普通なら朝から晩までしけこむもんだろうに変わってんなぁ。……ひょっとしてそっちの方は弱いとか」
 流石にそれには緋村が咳払いをした。緋村もまた年の離れた恋人がいる。近頃は年の差カップル、年の差婚が流行っているとはいえ、やはりロリコンやら、精神的に大人の女性を相手に出来ないから年下と付き合うのだとか、好き勝手言われる。他人の無責任な意見などいちいち気にすることはないといえ、面白いものではなかった。
「俺は何事も外堀を埋める主義だ」
 すると、それまで黙っていた蒼紫が告げた。
「あん? どういう意味だよ」
 相良が要領を得ないと問い返せば、蒼紫はチラリと一瞥して、また前を向いて走りながら、
「引き締まった身体の方が好まれるだろう」
 さらり、と答えた。
 相良にしてみれば常に無表情で味けない男も、妻のことを言われたら多少は動揺するかとからかっただけであったのに、蒼紫から”そのため”にだらしない身体よりも、引き締まった肉体の方が好まれるだろうから鍛えていると返され言葉に詰まる。更には、
「それに体力差もあるからな、向こうに鍛えてもらわないと、途中でバテる」
 だから妻と一緒に来ている、と。
「………………それ奥さん知ってるわけ?」
「まさか。”そんなつもり”で来ていると知れば恥ずかしがって拒否するだろう。ジムでデートだと思っている……時間だ。そろそろヨガが終わるから迎えに行く。俺はこれで」
 そういうと、ランニングマシーンを止めて、手すりにひっかけていたタオルを手に去っていく。
 相良はその後ろ姿を呆然と見つめた。
「なぁ、あれって本気か? 冗談か?」
 黙って二人のやりとりを聞いていた緋村にすがるように尋ねれば、
「本気だろう。もうからかうなよ。こっちが恥ずかしくなる」
 あっさりと肯定される。
「……ああ、わかってるって。しかし、ああいうのをむっつりって言うんだろうな。健全なジムで何考えてんだ」
 相良はからかう相手を間違えたと脱力した。



2013/9/25